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大正期にデビューし、戦前・戦後の激動の昭和をみずからの信念を貫いて生き、反戦詩人、反骨の詩人と呼ばれた金子光晴。彼は“詩論”を書かない詩人とも考えられていましたが、じつは、光晴の死後刊行された全集には、昭和30年前後に発表された詩論らしき文章がぽつりぽつりと収められています。ただ詩論といっても、それらは数多の詩人や評論家が綴る難解でギチギチに鋭角の詩論とは明らかに風合いを異にします。晦渋に陥らず、“詩をつくる”ということの本質を伝えようとした光晴。その言葉はいまも少しも色褪せず、まさしく詩を書きたい、詩人になりたいという者にとって、詩作の姿勢、心を教えてくれるものとなっています。
光晴がとりわけ強く説いたのは、詩と、詩を形づくる言葉が、生活のなかから生まれてくるということでした。
「使用されていない言葉は、生活とのつながりがない。生活とのつながりがなければ、その美しさは観念上の美で、陰影もひろがりもないことは自明の理である。(中略)新しく詩を作る人は、そんなわけで、できるなら日用語の口語文で詩を書いてほしい」
(『金子光晴全集 第13巻』中央公論社/1976年/以下同)
「日用語の口語文」といっても、これは〈不用意で思慮のない話し言葉〉という意味では決してありません。
「自由詩人でない現代詩人たちは、言葉の効果と使い方を会得しはじめたことで、ゆうに韻をふむ喜びに劣らない、もっと高度な作詩の喜びを取得しつつあることをしらなければならない。詩の材料は言葉だ。言葉しかないのだ。言葉の中には詩人の全天地が含まれているのだ」
という一節にも明らかなように、暮らしのなかで用いられる言葉が、その生気をいよいよ増すように、もちろん、吟味し、考え、磨き上げる必要があるのです。
金子光晴は、現代詩の唯一無二のユニークな方向性を示した詩人として、沖縄出身の詩人・山之口貘を挙げています。誇り高い貧乏生活を貫いた山之口貘は、不器用なまでに言葉を吟味した人で、1篇の詩を書き上げるのに徹底した推敲を行い何百枚もの原稿用紙を書き潰したといいます。彼が生涯に残した詩篇はわずか200篇。それらの作品は光晴のいう「生活とのつながり」に満ち満ちて、磨き抜かれたさりげない詩句は、人の心に沁み入る情愛を宿し、ユーモアとペーソスを立ち昇らせ、一見変わり映えのしない生活への新鮮な眼が息づいていることをありありと感じさせます。
『頭を抱える宇宙人』
青みがかったまるい地球を
眼下にとおく見おろしながら
火星か月にでも住んで
宇宙を生きることになったとしてもだ
いつまで経っても文なしの
胃袋付の宇宙人なのでは
いまに木戸からまた首がのぞいて
米屋なんです と来る筈なのだ
すると女房がまたあらわれて
お米なんだがどうします と来る筈なのだ
するとぼくはまたぼくなので
どうしますもなにも
配給じゃないか と出る筈なのだ
すると女房がまた角を出し
配給じゃないかもなにもあるものか
いつまで経っても意気地なしの
文なしじゃないか と来る筈なのだ
そこでぼくがついまた
かっとなって女房をにらんだとしてもだ
地球の上での繰り返しなので
月の上にいたって
頭をかかえるしかない筈なのだ
(『山之口貘詩集』思潮社/1988年)
金子光晴は、山之口貘の詩についてこう語っています。
「貘さんの詩は、怒ったり、争ったりする対象に、まともに突っかかってゆくかわりに、あいてのふしぎな急所をつかんで、困って、笑い出すよりしかたがない破目においこむ。(中略)貘さんは、つらいきもちを、詠嘆や、怨訴のような、なまなましい表現であらわそうとしない。じつにひとごとのように、もっとも面白く見える位置から、正確にとらえて表現する。つまり貘さんの『人間』を通して、他人の行ない、じぶんの行ないは一列の場所におかれて、おなじくらいのユーモアを帯びたものになるのだ。」
金子光晴は放浪の詩人とも呼ばれました。日々が“旅”であれば、“旅”もまた“生活”。すなわち光晴のいう“生活”とは、己の心と身体に、どんな乏しいものであれ養分を与えてくれる、日常的・基本的な営みといえるでしょう。
詩を書きたいあなた、何の変哲もない日常に欠くことなく存在する「もの」や「こと」、そこにこそ、詩を書くための精彩ある“言葉”が潜んでようです。それを見落とさない眼を、心を、たったいまこの瞬間から意識してみることで、詩人としての一歩が踏み出せるのかもしれません。
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