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「輝かしい未来」と「限りない可能性」を感じさせる新しい書き手を募集します。
文芸社文庫NEOの創刊からおよそ2年、累計売上部数30万部を突破した感動の恋愛小説『余命10年』が話題を呼んでいます。新たなる才能を発掘すべく開催した文芸社文庫NEO小説大賞からは、16歳の高校生による作品『赤とんぼ』が誕生しました※。
そして今年もまた「第2回文芸社文庫NEO小説大賞」を開催いたします! まだ出会っていなかったけれど「ちゃんと、しっかり、おもしろい」。そんな“キラリ”と光る才能を求めています。新しい書き手たちと人気イラストレーターが共鳴したとき、セカイはもっと、光り輝くと信じて……。
※前回の大賞受賞作『赤とんぼ』は2019年1月刊行予定です。
文芸社文庫NEOより書籍化・出版/副賞として賞金30万円
『笑わないジャックナイフ』
復讐を企む16歳の少女が、どこか奇妙な元同級生と偶然再会して……との導入から始まる青春小説。主人公の夏子は一年余の家出生活の後、ある重大な決意を持って地元・市川に戻ってきた。だが偶然そこで小学生の頃の同級生・沙耶花と再会。何かと鈍くさいのは昔のままだったが、奇怪で陽気なスキンヘッドの男・弓削と親しげに話す姿などを見て、夏子は次第に沙耶花に興味を抱くようになる。人物造型に如才がなく、それぞれの個性が際立って魅力的なのだが、突飛ということではなく、どこか親近感を覚える造型となっている。核心を伏せたまま「謎」を小出しに提示して読者の興味を持続させつつ、夏子の心情の変化を丁寧に辿るように描出している点が巧みであった。また、沙耶花が情熱を注いでいるスポーツについては、その解説が過度にマニアックでない点も好感が持てる上に、沙耶花のキャラクター性とマッチしていて本作の妙味となっている。全体の骨子としては「一つの出会いから始まり、それまで知らなかった世界に触れて、暗い情念から解放される」というストレートな青春小説といえるが、直球であっても紋切り型では決してない、独自性を備えた作品であると評価したい。
文芸社文庫NEOより電子書籍化・電子出版
『若者たち』
時代の代弁者としてのボブ・ディランや、反体制的な若者を描いたアメリカン・ニューシネマが愛されて、学生運動の余波が残る頃。1960年代から70年代前半までの時代の空気を作品世界として演出しながら、当時の若者たち、高校生の時から親友だった3人組の大学生活を描いた作品であった。ともすれば、郷愁という個人的な感情に任せて描きがちの題材であるが、本作の書き手が20代であることは注目に値する。当時の音楽や映画に寄せる書き手の愛情も、本作の大きな執筆動機になっているのかもしれない。ボブ・ディランがデビュー・アルバムで取り上げた「朝日のあたる家」、ビートニクを代表するジャック・ケルアックの「路上」、学園紛争に引き裂かれる恋を描いた「いちご白書」など、当時のトピックを会話文のなかにナチュラルな形で織り込んでいる。学生運動の描き方に粗略さが残るという憾みはあるものの、登場人物たち=若者たちの快活さ、哀感混じりの諦観を、政治の季節から移行する結節点の時期に重ねて表現していた。
今回も幅広い世代層から力作が応募されたが、第1回と異なるのは、世代ごとの応募者数に関して20代から60代までほぼ同数であった点が挙げられる。前回、16歳の高校生の小説を大賞に選んだ当コンテストだが、若年層に特化して書き手としての可能性を模索しているわけではないので、今回の応募傾向を大変嬉しく感じながら審査に臨んだ。
今回も応募作品のジャンルは多彩であったが、文芸社NEO文庫のレーベルカラーを意識したと思われる小説が散見された。「読みやすさ」と「読み応え」を魅力として併せ持った作品の創作は決して容易ではない。独りよがりにならず、また読者に過度におもねることのない表現バランスが求められる。Web小説が隆盛を極めている昨今、この表現バランスの感性は創作上の大きな要素といえるかもしれないが、今回最終選考の場にノミネートされた9作品は、読者を振り向かせるキャッチーさと、物語世界に引き込む充実した内容を感じさせる小説群であった。
実体験が滲むような物語の「海のシンバル」は、東日本大震災で被災した女子高生との日々を静かに描いた作品であった。安直な言葉で語ってしまう軽薄さに意識的である「僕」の誠実さが浮かび上がり、ゆえに切実に響くシンバルの音色が印象的であった。また「フィーネの旋律」はアンサンブル部に所属する高校生を登場人物として、ファンタジーの要素も盛り込まれた作品であった。重奏をイメージさせる人物相関によって爽快なクライマックスを表現する構成力が光る。「ひがしの図書館児童室」は図書館を舞台として、本というアイテムに絡めながら人間模様を丁寧に描いた作品で、オムニバス形式で落ち着きのあるドラマを展開している。本に対する書き手の想いも感じられる力作であった。「霊感少年工藤矢史と教室の幽霊」と「成功率100%!? 小此木さんの結婚相談所」はエンターテインメント性が色濃く、文章力は応募原稿の水準を超えている。幽霊や運命の赤い糸といった超常現象を題材としながら、コミカルな場面も盛り込んだストーリーの流れには安定感があり、完成度の高さは群を抜いていた。そして「暑くて寒かった夏休み」と「狐の呼坂」はひと夏の奇跡のような出来事を描いた作品であった。雪女、化け狐という妖怪にまつわるストーリーという点でも共通している。人間と妖怪との出会いと別れを叙情的な物語に仕上げた2作品で、ローカルな夏休みのドラマをノスタルジックに表現していた。
この7作品については、「笑わないジャックナイフ」「若者たち」と比較して技術面で極端に劣るというわけではなかった。ただ、受賞作が水をあけた要因は独自性といえるかと思う。ある分野における書き手の造詣が作中のディテールのリアリティやビビッドな人物造型に資することがあり、作品の新味として読者に伝わることがある。そうした新しい味わいは、モチーフの目新しさや設定要素の組み合わせによる奇抜さ・面白さよりも魅力的な独自性となり得るし、コンテストで勝ち残るための大きな武器となる。この点も踏まえつつ、書き手の方々には今後も創作活動に励んでいただきたい。