第6回文芸社文庫NEO小説大賞第6回文芸社文庫NEO小説大賞

NEO──それは、新しいこと。

「輝かしい未来」と「限りない可能性」を感じさせる新しい書き手を募集します。

いまや文芸社の看板作品となった涙より切ないラブストーリー『余命10年』。その発行部数は80万部を突破し、第2作『生きてさえいれば』や関連書籍を合わせ、小坂流加作品の累計発行部数は100万部をゆうに突破しています。すでに多くの読者を魅了してきた『余命10年』が、2022年春に映画「余命10年」として全国劇場で封切られ、30億円もの興行成績を収めたことも、本作がたたえる真の魅力を物語っています。

そのほか『BAMBOO GIRL』著者の人間六度氏が、第9回ハヤカワSFコンテスト(早川書房)で大賞を、第28回電撃大賞(KADOKAWA)でもメディアワークス文庫大賞を受賞するなど、エンタメ系小説市場の権威ある賞を連続受賞。また、第3回文芸社文庫NEO小説大賞受賞の『月曜日が、死んだ。』著者の新馬場新氏は、第16回小学館ライトノベル大賞(小学館)にて優秀賞を受賞。そんな2氏をはじめ、文芸社文庫NEO作品全体がいよいよ活気づいている状況です。

この、いまもっとも勢いある「文芸社文庫NEO」をプラットフォームに、新しい才能を発掘すべく2017年にスタートした「文芸社文庫NEO小説大賞」。今年もまた、第6回目となる文芸社文庫NEO小説大賞の作品募集を開始いたします。

まだ出会っていなかったけれど「ちゃんと、しっかり、おもしろい」。そんな“キラリ”と光る才能を求めています。旬を迎えようとするフレッシュな書き手と人気イラストレーターが共鳴したとき、セカイはもっと、光り輝くと信じて……。次はあなたが輝きを放つ番かもしれません。

最終選考結果発表
(2023.4.28発表)

・*・.:*・ 大賞 ・*:.・*・

文芸社文庫NEOより書籍化・出版/副賞として賞金30万円

弁当男子の白石くん

月森 乙

月森乙「弁当男子の白石くん」講評

両親の離婚をきっかけに少し不安定になりつつあった女子高生の「古都」と、いつも非常階段でひとりお弁当を食べている「白石くん」の交流を描いた青春恋愛小説である。少女漫画を彷彿とさせるような、読者の心をときめかせる物語には人を選ばない確かな魅力が感じられた。単純な小説としての面白さ、読者を飽きさせないテンポの良い文体と展開、じれったくも共感を覚えずにはいられない不器用なふたりの恋模様──どの点を取っても高水準でまとまった作品であることは間違いない。特に思春期の高校生を取り巻く様々な悩みごと(家庭環境、クラスでの立ち位置、漠然とした将来への不安)をふたりのやりとりの中に自然と落とし込んでいる点には、作家としての巧みな手腕が感じられた。白石くんの手作りのお弁当が、教室での立場も関係性も超えて、誰も知らない「ふたりだけの秘密と時間」を小説の中に創りだしている点はその最たる部分であろう。人物造形にも如才がなく、物語の中心となる古都と白石くんはもちろん、彼らを取り巻く様々な登場人物にもどこか親近感を覚えてしまう造形となっている。読者は繊細に揺れ動く古都の心情に共感をしながら、飽きることなく作品を楽しむことが出来るだろう。総合的な完成度に加え、決して普遍的ではない独自性を内包した『弁当男子の白石くん』は大賞に相応しい作品であると評価したい。

・*・.:*・ 優秀賞 ・*:.・*・

文芸社文庫NEOより書籍化・出版

『居合女子!』

坂井 のどか

坂井のどか「居合女子!」講評

「過去の自分との決別」という決意を胸に、「居合道」に打ち込む女子高生のうららを主人公にした青春スポーツ小説である。作品のタイトルに違わず、日本古来の武道のひとつである「居合」の世界を描き切った爽やかな物語であった。とりわけ、その場の緊張感や汗の一筋迄もが伝わってくるような居合の描写には、読者を瞬く間に勝負の世界に引きずり込んでしまうような、真に迫る迫力が感じられた。読んでいて気持ちの良い、まっすぐな文章には手に取った者を物語に没入させる確かな魅力があるだろう。選考の場で最も評価された部分は、作品のテーマそのものが居合道の精神とリンクしているという点であった。主人公のうららはいじめに加担してしまった過去を持つ高校生であり、その自分を乗り越えたい一心で居合の練習に刻苦する。そして居合道において斬るのは相手ではなく、自分自身の心なのである。うららは居合に向き合うことで自分自身と向き合い、決意の実現に向けて克己する──まさしく、しっかりと芯の通った小説であった。今回大賞ではなく次点となったのは、作品の構成や文章表現に修正の余地が感じられたことが大きな理由である。「居合道」という題材で勝負するのであれば、それを知らない人でも楽しめるような客観的な配慮が必要になってくる。その点を修正して、より魅力的な作品として世に送り出してほしいという期待を込めて、今回は優秀賞という形で選出させていただいた。

総評

当コンテストも開催6回目を迎え(自分らで口にするのもどうかと思うが)、界隈でもある程度の知名度を持つコンテストとなってきている。その事実を証明するかのように、回を重ねるごとに応募数は増加の一途であり、今回も〆切を迎える頃には前回の応募総数記録をあっさりと更新していた。本当にありがたいことである。これだけの作家志望者が世の中にいることに深く感銘を受けるとともに、「応募作品ひとつひとつにより一層の想いを傾けて接していきたい!」と心境を新たに選考に臨ませていただいた。

今回も幅広い世代から多くの力作が応募され、作品ごとにジャンルもアイデアも多彩な様相を呈していた。ひとつの物事をどこまでも深く書き込んでいく作品もあれば、奇抜なアイデアを基にして自由な世界観を構築していく作品もあり、どの作品を取っても原稿に込められた書き手の強い気持ちを感じることが出来た。選定には非常に苦慮したが、最終的に「読み易さ」と「読み応え」という直接的な面白さと、「テーマ性」や「読者に訴えかけるメッセージ性」という客観的な魅力を見事に両立させていると感じた10作品を最終選考作品としてノミネートさせていただいた。先に大賞作品『弁当男子の白石くん』と優秀賞作品『居合女子!』の講評は記載しているので、ここではそのほかの最終選考に選ばれた作品について述べていきたい。

名前のない旅人と相棒の黒猫が旅をする『12月のラピスラズリ』は、幻想的な雰囲気が魅力の小説であった。旅の本当の目的や黒猫の真意など、読者を驚かせる工夫に富んでおり、美しい世界観と合わせて最後まで彼らとの旅を楽しむことが出来た。『ギャンブル義務』は国民にギャンブルを義務付けるという破天荒な設定とは裏腹に、そのギャンブルによって人生を翻弄される人物たちを深く描いた群像劇であった。独自性あふれる魅力的な設定の中で、人物描写を追求した力作である。『ボーダーランド』はトランスジェンダーを青春小説の中に自然に溶け込ませた、爽やかな雰囲気の物語だった。テーマの重さに引きずられずに、思春期の高校生たちに思わず共感をしてしまうような、後味の良いドラマを展開している。『るりと緑の鳥』は綿密に練られた世界観と読者を引き込む確かな文章力が魅力のファンタジー小説であった。特に子どもの成長過程の表現や巧みな心理描写は、選考会でも高く評価されていた。子どもから大人まで分け隔てなく楽しめる作品である。『神柱小町妖異譚』は人柱に選ばれたことをきっかけに少女が土地神と暮らすことになる作品である。胸が温かくなるようなエピソードからほろりと泣けてしまうエピソードまで、連作短編の魅力を最大限に活かしたエンタメ性のある小説であった。『神様がくれた指』はストリートミュージシャンの世界、その実情をありのままに描いた小説である。洗練された音楽の描写だけではなく、登場人物ひとりひとりの背景にスポットライトを当てた構成には小説の枠組みを超えた高いリアリティを感じた。『灯しや電気店』は古い温泉地にある町の電気屋さんを舞台にした作品である。文章によどみがなく、親近感を覚えてしまうような人物造形が実に巧みであった。人情味あふれるやさしい物語には読む者を選ばない普遍的な魅力が感じられる。『彼女が海にとけていく』は絵に向き合う女性を主人公にした、現実と幻想を行き来するような静謐でうつくしい小説である。全体に不思議な浮遊感がありながら、作中の出来事すべてが「絵を完成させる」という結末に収束していく構成が光る上質な作品であった。

受賞作品と比べても、それぞれの作品に大きな差があるわけではなかった。選考会ではこの講評で語られている以上に、様々な視点からの意見の衝突があった。どの作品も一定の基準を超えた力作揃いであるがゆえに、結果を分けたのは「読者」の存在であった。書き手の提示する表現意図は読者にとって本当に魅力的であるか? 客観的に見て作品の設定や展開はわかりやすいか? もしくは、それらの疑問に目をつぶったとしてもお釣りがくるほどの魅力を提供できているのか? そういった観点で捉えると、今回の受賞作品は「最も読者を意識していた作品」と「最も独自性で突き抜けていた作品」であったと評せるだろう。書き終えた物語を読者目線で捉え直すことは実に難しい。それでも作品の向こう側にはいつでも「読者」の存在がある。何度も何度も見つめ直し、緻密なバランスが成り立った瞬間にこそ、とんでもない名作が生まれ来るものである。この点を踏まえつつ、書き手の方々には今後も創作活動に励んでいただきたい。

最終選考ノミネート作発表
(順不同・2023.3.31発表)

  • 神様がくれた指
    手塚 幸
  • ボーダーランド
    各務 縁
  • 12月のラピスラズリ
    あまくに みか
  • 灯しや電気店
    青空 雨里
  • 神柱小町妖異譚
    じゅん
  • 彼女が海にとけていく
    有海 ゆう
  • るりと緑の鳥
    中林 菜穂子
  • ギャンブル義務
    山木 晶弘
  • 居合女子!
    坂井 のどか
  • 弁当男子の白石くん
    月森 乙

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