第7回文芸社文庫NEO小説大賞第7回文芸社文庫NEO小説大賞

NEO──それは、新しいこと。

「輝かしい未来」と「限りない可能性」を感じさせる新しい書き手を募集します。

文芸社文庫NEO小説大賞とは──?

いまや文芸社の看板作品となった小坂流加氏の『余命10年』。その発行部数は80万部を突破し、第2作『生きてさえいれば』や関連書籍を合わせ、小坂作品の累計発行部数は100万部をゆうに突破しています。すでに多くの読者を魅了してきた『余命10年』。2022年に全国の劇場で公開されたその映画版が大きな興行成績を収めたこともまた、本作がもつ普遍的な魅力を物語っているといえるでしょう。

文芸社文庫NEO作家全体を見ても、近年目覚ましい活躍がトピックスとしてあげられます。『BAMBOO GIRL』の人間六度氏が第9回ハヤカワSFコンテスト(早川書房)で大賞を受賞、第28回電撃大賞(KADOKAWA)でもメディアワークス文庫大賞を受賞するなど、エンタメ系小説市場の権威ある賞を連続受賞し、商業的な面でも成功を収めています。さらには、第3回文芸社文庫NEO小説大賞受賞の『月曜日が、死んだ。』の新馬場新氏もまた、第16回小学館ライトノベル大賞(小学館)で優秀賞を受賞。そんな2氏を筆頭に、文芸社文庫NEO全体に追い風が吹いているような状況です。

いよいよ勢いを増すこの「文芸社文庫NEO」をプラットフォームに、新しい才能を発掘すべく2017年にスタートした「文芸社文庫NEO小説大賞」。今年もまた、第7回目の作品募集を開始いたします。まだ出会っていなかったけれど「ちゃんと、しっかり、おもしろい」。そんな“キラリ”と光る才能を求めています。旬を迎えようとするフレッシュな書き手と人気イラストレーターが共鳴したとき、セカイはもっと、光り輝くと信じて……。次はあなたが輝きを放つ番かもしれません。

最終選考結果発表
(2024.4.26発表)

・*・.:*・ 大賞 ・*:.・*・

文芸社文庫NEOより書籍化・出版/副賞として賞金30万円

『君を待つひと』

橘 しづき

橘しづき「君を待つひと」講評

人生を全うした人だけが辿り着く不思議な広場。その場所は待ち合わせの名所となっており、大切な人と再び巡り会えるのだという――本作はそんな不思議な広場の目の前にあるレストランを舞台にした連作短編である。主人公のワタルはそのレストランで働きながら、愛する人との再会を願って広場を訪れる人々と交流を育んでいく。本作の魅力として最初に挙げられるのは、丁寧に構築された舞台設定である。連作短編では一話ごとに人物が入れ替わることが多いのだが、本作ではそれぞれのエピソードの人物がまるでバトンを繋いでいくように、ひとつの時間軸を共有して物語を展開していく。そうした物語内の連続性が、自然と話全体に深みをもたらしており、読者に連作短編としてではなくひとつの物語を読み終えたような満足感を与えることに成功している。設定だけを見てしまえば、同じように感じる作品もあるかもしれないが、本作は確かなオリジナリティを携えた作品として完成されている。特に物語を締めくくる主人公のワタルのエピソードはその最たる部分であろう。これまで読者と同じ目線で物語を見つめていたワタルが、各エピソードの人物との交流を通して自身の待ち人を思い出し、読者である我々の手を離れて自ら物語を展開していく場面には涙を禁じ得ない。ばらばらのエピソードがまるでひとつの物語のように収束していく様子は、読んでいて非常に心地のよいものである。読者を選ばない物語と、読後にあたたかなで幸せな余韻を与えてくれる本作は、間違いなく大賞に相応しい作品であろう。

・*・.:*・ 優秀賞 ・*:.・*・

文芸社文庫NEOより書籍化・出版

謎解きに砂糖、ミルクはいりません

未苑 真哉

未苑真哉「謎解きに砂糖、ミルクはいりません」講評

父親から受け継いだ「幡野珈琲店」を舞台に、二代目マスターである幡野圭介と「人を殺してきた」と語る謎多き女性客との邂逅を描いた小説である。興味を引くタイトルはさることながら、章題にも「マンデリン・フルシティロースト」といった珈琲の銘柄を用いるなど、細やかな部分にまでこだわりを感じられる作品であった。とりわけ、謎の多い女性客とのやり取りには自然と次の展開を追いかけてしまうような抗えない魅力があり、読者は彼女の抱えた秘密に思いを巡らせながら、随所に散りばめられた珈琲に関する蘊蓄を楽しむことが出来るだろう。また、会話の運びや物語の構成、読み易くも洗練された文章からは作者の確かな技量が見て取れる。複数の「謎」をちりばめて並行した物語を展開することで、読者を終盤まで飽きさせることなく、強力に牽引する読み応えがある作品であることは間違いがない。それゆえに、「謎」の真相が読者の期待値を超えてこなかった点が悔やまれる。きわめて高い完成度でありながら、大賞ではなく次点となった要因はその一点である。しっかりと作り込まれた作品には、読者からの想像以上の期待が寄せられるものであり、作家は常にその期待に応え、それを超えていかねばならない。本作に更なる磨きをかけていくことで、今以上に魅力的な作品へと変貌する可能性と、これからの将来性に期待をかけて、今回は優秀賞というかたちで選出をさせていただいた。現時点でも完成度の高い本作の未来に期待を寄せたい。

総評

2017年1月に「文芸社文庫NEO」レーベルを創刊、同年「第1回文芸社文庫NEO小説大賞」を開催し、コンテストも今年で第7回目を迎えることとなった。大変ありがたいことに回を重ねるごとに応募数は着実に増加しており、今回も無事にこれまでの最大応募数を更新するなど、多くの作家の卵がこうして存在していることに、業界に携わる人間のひとりとして深い感動を覚えている。人の数だけ物語が存在するとはよく言うが、それを文字として、小説として形にするのは容易なことではない。1通1通ご応募いただいた作品に改めて敬意を表し、その熱意に応えるように思いを新たにして今回も選考に臨ませていただいた。

応募数の増加に伴い、選考過程をさらに突き詰めていったところ、今回最終選考作品として選出されたのは5作品のみという結果となった。これは決して全体の質が下がったというわけではなく、むしろその逆で、全体の質が向上した故に選考基準を引き上げる他なかったというのが正直な所感である。以上の理由から、今回は数多にきらめく作品群の中から、より尖った、誰かの心に深く刺さりそうな作品に絞って選出をさせていただいた。

さて、大賞受賞作「君を待つひと」、優秀賞受賞作「謎解きに砂糖、ミルクはいりません」の2作品に関しては、先に触れているので、こちらでは最終選考作品に選出された作品について触れていきたい。

「人の死が見える」という同級生との青春の日々を鮮やかに描いた「夏の終わり、君が死ぬまでの日々」は、独自性のある設定もさることながら、普遍的な魅力のある感動の青春恋愛小説として物語を楽しむことが出来た。特に導入部分には読者を物語に引きずり込んでしまいそうなほどの力を感じた。完成度の高い優れた作品ではあるが、惜しむらくは冒頭に提示された「沙世子の死」が物語終盤まで展開しない点である。今一度作品の構成を見直して、話全体の整理をすれば、間違いなく誰の心にも響く感動の物語となるだろう。

「世界に色が戻るまで」は様々な障害を乗り越えて、愛を育んでいくふたりの恋模様を描いた小説である。読者を飽きさせない工夫された展開と、愛し合うふたりのすれ違いを巧みに描いており、困難を乗り越えて結ばれていく物語には誰もが共感を覚えて感情移入してしまうだろう。ただ物語性が豊かなゆえに、登場人物の背景描写や動機付けが追いついていないように感じられた。この点を改善してしっかりとした人物造形が確立されていけば、物語性と登場人物の魅力を兼ね備えた唯一無二の恋愛小説へと昇華されるだろう。

「廃工場の白」は山の上にある廃工場を舞台に、つかみどころのない不思議な人物である「シロ」との出会いを描いた連作短編である。「シロ」の正体はなんなのかという謎を読者に問いかけながら、彼との出会いを通じて変わっていく人々を描いたそれぞれのエピソードに魅力を感じる作品であった。また、登場人物に季節の名前を付けることで作中における時間経過を間接的に表現するなど、確かな技巧も見て取れる。作中で最も魅力的であり謎めいている「シロ」の正体や背景を明らかにし、抽象的になっている作品の輪郭を明確にすることで、今以上に読者の心に訴えかける作品に出来るだろう。

今回のコンテストでは、最終選考会において、過去に類を見ないほどに熱い議論が交わされた。各自が作品に対する思いを吐露する中で、最後に指針となった評価基準が「どこまで読者を意識できているか?」という客観性と、「突き抜けるほどの独自性はあるか?」という直接的な作品価値のバランスであった。本にして出す以上、読み手となる「読者」の存在は必然であり、その視点に立てるかどうかは作家として非常に重要な資質である。その一方で、それらすべてを吹き飛ばすような強烈な個性というのもまた、今の時代に求められる要素であると考える。今回受賞作に選ばれた2作品はまさにそれらの要素が緻密なバランスの上に両立されていた。絶え間ない作品の推敲の果てにこそ、作品の「本質」が見えてくるはずである。以上の点を踏まえつつ、書き手の方々には今後も創作活動に励んでいただきたい。

最終選考ノミネート作発表
(順不同・2024.3.29発表)

  • 世界に色が戻るまで
    青木 万利子
  • 夏の終わり、君が死ぬまでの日々
    実松 璃夜
  • 君を待つひと
    橘 しづき
  • 廃工場の白
    久道 楽
  • 謎解きに砂糖、ミルクはいりません
    未苑 真哉

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