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Road to publishing
小学生の頃、ふと自分の名字「守時」への興味が湧き、一旦興味が湧くと不思議なもので、以降日に日に気になってきて仕方がなくなりました。大学生になって、アレックス・ヘイリーという人が書いた『ルーツ』という本に出会ったことから、その時にすでに知り得ていた自分のルーツ「極楽寺流 赤橋氏 鎌倉幕府第十六代執権 北条守時 従四位上 相模守 慈光院道本」をより深く知るためには、先ずは鎌倉の寺社へ赴かねばと考えました。そうして報国寺を訪問した際に、一族滅亡時の鎌倉武士無縁仏に出会ったのです。
日本興業銀行に入行してからは、名刺交換や宴会の度に「珍しい名前ですね」「初めてお聞きする名前です」などと言われ、自らのルーツを説明することが多くなりました。それから時は経ち、銀行退職後のことです。父親が亡くなる前に、病院のベッドで先祖の「守時」について走り書きされたボロボロの紙を見せられ「北条守時の末裔として“守時”という名前を何らかの形で残したい」と言われました。その父の言葉を聞き、家の長男としてより深くルーツを探ろうと一念発起したのです。
銀行時代の訓示「企業への融資を判断する審査調書は足で書け」を思い出しつつ、鎌倉を中心に100以上ある北条氏ゆかりの寺を訪ね、住職や専門家に話を聞き、文献にも当たりました。そうした地道な調査の結果、家系図があるわけでもなく、曖昧模糊としていた先祖の姿が徐々に明らかになってくるのですが、本を執筆する喜びやワクワク感はまさここにあると感じたものです。最後の執権守時は、その妹が足利尊氏の正室であったため、一時「裏切り者」呼ばわりされもしたのですが、鎌倉武士として生きて帰りはしないと覚悟を決め、執権自ら邀撃に出陣し、自刃して果てました。その生き様に多くの人が感動したと知り、私も胸が熱くなりました。
本をつくる中でさまざまな調査をし、自分なりの結論を得て、ここにひとつの「けじめ」をつけられた思いでいます。守時の末裔であることを誇りに感じ、先祖があるから今の自分があるということの意味を噛みしめています。先祖への感謝と両親への供養から正式な本にして出版したものの、「虎は死して皮を残し、人は死して名を残す」の故事のとおり、自分の為にもせめて「本」だけでも残せたことは良かったと感じました。実に清々しい気分です。
歴史作家の山村竜也氏も推薦されている本書。北条一族は多様な人物が登場し、複雑な印象を持たれている方も多いかと思いますが、本書は判りやすく丁寧に歴史を紐解いています。「先祖があるから今の自分がある」とおっしゃる通り、誰もが自身のルーツを探ることで辿りつく境地があるはずです。守時さん、ありがとうございました!