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小説を書こうと思った人なら、必ず行き当たる「プロット」という言葉。このページを読んでいる人で、もし初見の方がいらっしゃるならここで覚えてしまいましょう。
「プロット」、これは「plot」という英単語で、名詞としては1.策略、陰謀 2.(物語・小説・などの)筋、構想 3.小区画の土地 ――という訳になり(出典:英辞郎 on the WEB)、小説執筆の分野ではもっぱら「話の筋」や「物語の構想」との意味で使われます。
しかし「構想」と言われても、あまりにも漠然としていて「そんなものなら頭のなかにあるワイ」と答えたくもなりますよね。そんな場合は「設計図」と考えてみてください。頭のなかに収めておくだけでは、誰もそれを設計図とは呼びません。つまり紙なりデータなりにアウトプットしなくてはならなくなります。そんなの面倒だし時間の無駄と思われますか? いいえ、その作業こそが、のちのあなた自身や作中の主人公を救うのです。
さて、机に着いたあなた、はて? と筆が止まってしまうのではないですか? 頭のなかに収まっていた構想を時間軸に従い列記してみても、あれれ? なんだかオモシロくなさそうな……。その感覚はちょうど、あれほどおもしろかった夢を寝覚めに誰かに伝えようとしたとたん、あれよあれよと風船がしぼむように魅力が削がれていくのにも似ているかもしれません。でも安心してください。それはあなたの構想がおもしろくないからなのではなく、構想の書き方がいけないのです。
脳内にある構想とは、けっして時間軸に従い列記されているわけではありません。まず視点はインパクトあるイメージにフォーカスされており、その因果関係として前後の時間が付随しているのではないでしょうか。因果関係とはつまり「なぜ?」について「だから」で答えることです。といってもちょっとわかりませんね、こんな悪例を一読すれば伝わるでしょうか。
おじいさんは山に柴刈りに行った。おばあさんは川に洗濯に行った。川の上流から大きな桃が流れてくる。その桃をおばあさんは家にもち帰った。桃からは子どもが生まれてきた。子どもは「桃太郎」と名づけられた。大切に育てられ逞しく育った桃太郎は、きび団子を携え、犬と猿とキジを連れて鬼退治に出かけた。鬼はいなくなった。
誰もが諳(そら)んじているむかし話『桃太郎』ではあるものの、まったくおもしろ味を欠いていると感じたのではないですか? では、この悪文に出てくるすべてのできごとに、「なぜ?」とそれに応じた回答を挟み込んでみてください。すると、話の流れに背景が生まれ、皆さんがよく知っている『桃太郎』に近づくのではないでしょうか。
ここでは最大の「なぜ?」、「桃太郎は何ゆえ鬼退治に出かけたのか?」についてのみ(例なので少し過剰に)書いてみます。
その村はすっかり荒廃していた。この数年というもの、鬼が人間の住む村にやってきては、悪行の限りを尽くしてきたからだ。その手はおじいさんおばあさんの集落にもおよび、もともとつましく暮らしていたふたりの生活は、いまや貧しさの限度を超していた。煮炊きをする薪は火を着けられ焼失し、水を溜めていた甕(かめ)は叩き割られ、おじいさんとおばあさんは、火も水も、使うたびに都度まかなわねばならぬようになっていた。そして、村中がそんな困り果てた老夫婦ばかりだった。
こんな感じで、まずは頭のなかの構想で中心となっているくだりを1単位のユニットとして作成してみましょう。次に、それらが相互に無理なくつながるよう、「なぜ?」に素直に従いユニットを追加していきます。その繰り返しで自然とプロットは仕上がってくるはずです。こんな作業を進めるなかで、あなたの目にはかつてないほどにはっきりと見えてくることでしょう。プロットとは、時間の流れに沿って組み合わせる必要はない――のだと。
こうした小説構築の考え方は、まず主体となる部屋があり、それをつなぐ廊下があり、階をまたぐ階段があり……と各ユニットをイメージして構成する建築技法とやはり似ています。そこには無論のこと設計図が必要で、それなしには建造物の工事が進まないように、小説だってプロットがなければ途中で迷走してしまいます。逆に、ある特定のパートに改稿の必要性が生じた場合、これも建築の増改築の発想と同じように、小説だってユニットの組み換えや部分ごとの変更が容易になります。
じっさいに起こしはじめてみるとよくわかりますが、プロット作成には「登場人物の造形や相関図」「舞台や世界観、宗教観」「物語とシンクロする時代に起きた事件」など、あらゆる要素の設定が必要になってきます。そうした過程を含めて、プロットを起こすということは、小説執筆の初手の初手、要の作業といえるのかもしれません。ストーリー性の高い長篇を仕立てようと思ったら、必要不可欠とすらいえるでしょう。
もちろん、プロットを固め過ぎると、それに囚われて物語が小ぢんまりしてしまうというマイナス面もあります。きっちりまとまり過ぎていると、なんともおもしろ味に欠けるのは、小説でも人間でも同じです。とはいえ、「登場人物のアイデアや作品世界の醸す雰囲気はありありと浮かぶのに、物語がうまく書けない」というスランプにハマっているような人は、「プロットの組み方が甘い」――このセンを疑ってみるべきでしょう。
※この記事は弊社運営の【気軽にSite 執筆・出版の応援ひろば】掲載の記事を再構成して作成しています。
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