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子どもたちに「自由」と「破天荒」を教えたい!

2025年03月11日 【絵本・童話を書く】

「自由」って本当にいいもの?

ひとくちに「自由」といっても、いろいろな形やイメージがあるわけですが、その根本的な意識・認識は時代とともに変化していくものです。たとえば1992年に夭折したカリスマ尾崎豊は、自由を求めて盗んだバイクを走らせましたが、それから30年以上経った現代において同じ行動に出る10代はごく少数なのでしょう。「自由」と「不自由」を天秤にかければ、誰だってそりゃあ「自由」のほうがいいと答えるに決まっています。昭和終盤に小中学生の身だった者としては、嫌というほど『翼をください』を歌わされ、つまるところ「自分たちは自由じゃないのだ」とすり込まれてきた感触があるのですが、さて、いまどきの青少年はどうなのでしょう? 鳥のように雲のように、誰にも束縛されない自由、言いたいことを言える自由、そうした自由に憧れる心緒をもち合わせているのでしょうか。それとも、まあまあ自由な世の中になって、ひとまずはこと足りているという具合なのでしょうか。

現代日本は「自由」という面では恵まれた時代といえるでしょう。独裁政権はとうに消え去り、法に則る限りは、職業も結婚も生活スタイルも自分で選べます。ジェンダー問題など、前時代的な法の拘束により制限を受けることは随所に見られますが、過去のどの時代と比較しても自由であること自体は、どなたもが認めるところでしょう。私たちはそれを当たり前のものとして享受しますし、その権利がありますが、こうした社会のあり方は、50年ほど前なら考えにくく、100年前となったらまったくあり得ないことでした。自主的な意思や選択が尊重される現代社会、そして個々人の意識。けれどその恵まれた環境こそが、皮肉にも自由に対する希求の念や想像力を薄れさせてしまったことは否めません。因習に囚われた社会や体制といった、ある意味、闘争すべき敵を失った現代、何を仮想敵に打ち克つ必要があるというのでしょうか。個々人を見舞う局所的な不条理を除けば、「社会」とはもう若き血を滾らせ争うような相手ではなく、そこかしこに改善点程度のアラが散見されるばかりの“ほぼ、まほろば”のようにも思えます。つまるところこれは、かつて社会や時代と闘った先人たちの望む世界になったということなのでしょうか?

「破天荒」ってどんな意味?

「自由」に対するこうした意識や状況の変化がある一方、「破天荒」という言葉にも近ごろは気になるものがあります。「破天荒」とは、動乱の歴史を生きた人を偲ぶ言葉でもなければ、ハチャメチャをやり尽くした人生を形容する言葉でもありません。テレビ番組などでは「あり得ないこと」の最上級かのように笑いすら狙って使われることもありますが、こうした状況こそが、「破天荒」をますます現実感覚から遠ざけ、青少年をしてなんら自分とは関わりのない「特別な人たちの話」との意識を固めさせていくでしょう。これはまことに憂えるべき事態です。なぜなら、「破天荒」という言葉への真の理解を深めることで、空想世界の大きさ広さも、ひょっとしたら生き方さえも、変わる可能性があるというのに、その機会をみすみす逃しているからです。

「破天荒」とは「前代未聞」とほぼ同義。「天荒(荒れた地)」を破るという中国の故事成語で「誰もなし得なかったことをなす」というのが本来の意味なのです。が、長く広く誤解された結果、誤解がマジョリティをなす現在、「豪快で大胆」といったニュアンスで用いられることのほうが多くなっています。これは想像に過ぎませんが、「破天荒」の本来の堅実な意味にも関わらず、「荒れた天を破る」とも読みとれるいかにも荒々しく勇ましい字面から、本義を逸れてやけにスケールの大きな気配をまとっていったのではないでしょうか。ただ、それこそ現実から遠ざかった絵空事。「破天荒」とはそんな荒ぶれた伝説みたいなものではなく、「型にはまらない」「オリジナリティのある」などと捉えておいたほうが、作家になりたい人にとってはよほど身につきためになるかと思います。そして、特に幼い子どもたちにあっては、「破天荒」さらに「自由」という言葉をもっと身近に親しみ、そこに無類の愉しさを見出して、心と右脳の栄養としてほしいものです。

自由で破天荒な名キャラクター、ここにあり

マーヴィン・ピークの『行方不明のヘンテコな伯父さんからボクがもらった手紙』は、笑いにあふれた奇天烈な冒険物語。退屈な日常から逃れて探検家になった要するに「変人」の伯父さんが、幻の獣「白いライオン」を追い求めて極北の地で繰り広げた日々の出来事を、甥の「ボク」に書いて知らせた14通の絵手紙からなっています。この伯父さんときたら、自由さにかけてはもう宇宙一と称えてもよいほどで、手紙に書かれているのは法螺話としか思えない壮大かつ珍妙な冒険の数々なのでした。

まえの手紙はずいぶんと長くなったけれど、そろそろ要点に入らなくてはいけない。過去には、二度と触れんと約束したから、五日前に雪ヘビからからくも逃れた話をおまえにするわけにはいかんな(雪ヘビはなんと街灯ふたつぶんの間隔があるほどの長さだった)。そいつを義足のツノで松の木に突き刺したものの、なかなか死なず、おじさんが三日間以上も動けずじまいだったというような体験を語ってやれないのはじつにじれったいもんじゃ。

マーヴィン・ピーク著:横山茂雄訳『行方不明のヘンテコな伯父さんからボクがもらった手紙』/国書刊行会/2000年

という具合で、触れんと約束したくせに危機一髪だった大活劇をこと細かに語るくだりには、義足の先でヘビを刺したものの、ヘビを貫通し木にも突き刺さったままで足を取られる伯父さんと、その眼前に顔を寄せ毒牙の口をカッと開くヘビの挿絵が添えられています。けれど、伯父さんはただの大法螺吹きの変わり者ではありません。こちらも名キャラクター、グズでのろまな犬ジャクスンをお供に珍道中を押し進め、想像を絶する冒険を次々と制し、ついに幻獣に出会うのですから──。ああ、なんて自由で破天荒で楽しい絵本でしょうか。20世紀前半を生きたピークならではの、オーセンティックでクラシカルなファンタジーここに極まれりといった読み味です。

絵本・童話作家になりたい者がなせる偉業

『行方不明のヘンテコな伯父さんからボクがもらった手紙』の愛すべきヒーロー「伯父さん」の冒険譚は、一見荒唐無稽にも映りますが、デタラメでもナンセンスでも決してありません。なぜって、伯父さんは断固とした志を抱き、自分の成功を信じて、ついに世にも珍しい「白いライオン」を発見するのですから。どれほどヘンテコなことをしでかそうと、偉業を成し遂げたヒーローであることは認めるほかありません。手紙を受け取った「ボク」にしても、当初どれほど面食らったにせよ、伯父さんが見せるその“背中”は、生涯忘れられない大きな存在となったことでしょう。

「憧れるのをやめましょう」

皆さんよくご存じ、メジャーリーガー大谷翔平選手が2023年WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の決勝前にチームメイトにかけた言葉。何という名言でしょう。それが当たり前と認めつつも、いつものように憧れるばかりでは、憧れる対象の域には手が届かない、超えられない、勝てない──。だからふだんの価値観をいったん取っ払おうという声がけです。現代においては、これを言った大谷選手こそが、「破天荒」を字義どおり具現化している最高峰といえるかもしれません。彼の二刀流はそれこそ前代未聞。荒ぶる気配など露ほども見せず、真の破天荒を積み重ねの上に体現して見せてくれています。冒頭の「自由」についても同じ。現在の自由がちょうどいい温度、これ以上は望むまいと充足しているのだとしたら、それは社会システムに飼い慣らされているのと同じ。飽くなき自由を求め、ふだんの価値観を疑い、もっと奔放に、生き生きと心の弾む愉しさを希求する意志をもちましょう。と同時に、そのための努力、そのための闘争を恐れないこと。そうしたことを子どもたちに教えることもまた、絵本や童話をつくる者の大事な役目なのだろうと思います。

※Amazonのアソシエイトとして、文芸社は適格販売により収入を得ています。

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