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「降りてくる」というのは、近年、ふだん使いが当たり前になってきた言葉のひとつです。もとはネットスラングだった「キタキタキターーーー!」なんて表現も定番化した感がありますね。「降りてくる」とは、アイデアやヒントなどが思いがけず、まるで天からの賜り物のように脳裏に閃くことを指すわけですが、由緒正しき表現に置き換えるとすれば、さしずめ『天啓』といったところでしょうか。この天啓、一閃まばゆい降臨物というのは、ことクリエイティブの世界ではおいそれとは出会えません。ビギナーズラックで処女作を無事に書き上げて以来、いや、それもラックというよりビギナーズハイによる妄想? なんて具合にとんと降りてくることはなく、創作歴を積むほどに、結局、降りてくるのは天才の如き人たちの頭上ばかり……と少し涙目。いくら小説を書きたい、作家になりたいといっても、所詮凡庸な人間にはそんな恩恵はもたらされないのさと、自嘲気味の向きもあるかもしれません。
確かに、天啓と呼ぶにふさわしい閃きはそんじょそこらにピカピカ光って現れるものではないにせよ、降りてくるのは天才にだけ──というと、決してそんなことはないのです。神の恩寵とは天才であろうが凡人であろうがなべて平等にもたらされるもの。ただし! ただしですよ。重々しく申しますが、「アイデア降臨」をその身に受けるためには、日ごろからの準備、“土壌づくり”が大切であることは、しかと心得ておかねばなりません。
そもそも、降臨したアイデアを得るためには、これをしっかりと受け止める態勢や力量が求められます。たとえばキャッチボールをするにしたって、優れて鋭い球をキャッチするには、受け手にもそれだけの技量が必要です。詩を書く、小説を書くという分野でも同じでしょう。もしも作家になりたいあなたが準備不足、鍛錬不足であったら、それがために、天啓を感知することは叶わず虚しく通り過ぎていってしまう……なんてことはままあるのです。想像してみましょう。作家になりたいけれど、どうにも暢気な自分が平和に微笑むそのすぐ脇を、いくつもの光り輝くアイデアがヒュンヒュンかすめ飛んでいくさまを……。ああ、なんともったいないことでしょう!
我知らずそのような虚しい事態を避けるには、一体どうしたらよいか? 準備や鍛錬とは何か? それはひと言でいえば、真剣に書き、書くために考えることを習慣づける、ということに尽きます。詩なり小説なりを漫然と書いていてはいけません。よい作品を書きたい、書くぞ、という断固たる意志をもって、執筆に臨み、これはダメあれもダメああ全部ダメと苦しみながら、突破口やアイデアを求めて考え抜く──その果てにこそ、降臨の瞬間が訪れる……かもしれないのです。書くために考えつづけることで、あなたの感知力は研ぎ澄まされていきます。そこにふっと、天使の羽が舞い降りてくるかのように、アイデアが降りてくるのです。
著名な作家や芸術家たちだって、創作、執筆の苦しみを味わってきました。むしろ常人の比ではないでしょう。飛び抜けて優れた書き手であればあるほど、降りてきたものの輝きも鋭さも桁違いといえるはずです。そんな彼らの、創作という行為に向きあうなかで生みだされたフレーズをいくつか紐解いてみましょう。
──創造力というのは使い切ることはできない。使えば使うほど創造力は身につく。
(マヤ・アンジェロウ)
──内なる声が『おまえには描けない』と言ったら、何としても描け。そうすれば何も言わなくなる。
(ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ)
──心の充足に満ちた生活を送ろう。つまり、新しいアイディアに心を踊らせ、普通じゃ無いということに毒される、ということだ。
(アーネスト・ミラー・ヘミングウェイ)
──ひらめきがやってくるのを待ってはいられない。棍棒を持って追いかけるしかない。
(ジャック・ロンドン)
いかがでしょうか。輝かしい仕事を遺した先達も、「書けない! まったく書けない!」と呻吟するなかで道を拓いていったことが伺えます。古今東西、創作に携わってきた人々の、祈りのようなものすら感じられる名言の数々です。
ノーベル文学賞を受賞した劇作家のジョージ・バーナード・ショーは、自作の戯曲『Back to Methuselah』(メトセラ時代に帰れ、邦題『思想の達し得る限り』)において、このように記しています。
存在するものだけを見て「なぜそうなのか」と考える人もいるが、私は存在しないものを夢見て『なぜそうでないのか』と考える。
空想は創造の始まりである。願いごとを空想し、次に空想したことを願いだし、そしてついには、空想したことを創造する。
アイルランドが誇る文学者バーナード・ショーの「空想」「存在しないもの」への夢想は、いかなる作品に結実したのでしょう。例えば、誰もが知る映画『マイ・フェア・レディ』のもととなった戯曲『ピグマリオン』が彼の代表作として挙げられます。『マイ・フェア・レディ』といえば未熟な女の子の淑女への変身物語だろうって? そうした一面だけじゃないのが、後世に残る傑作たる所以なのです。
バカな真似をしないで何の己の人生か。難しいのはそれをする機会を見つけることだ。めったにないこのチャンスを無駄にする手はない。よし、ひとつこの薄汚いドブ板娘を公爵夫人に仕立ててやろう。
「ピグマリオン」とは、詩人オウィディウスによるギリシア神話『変身物語』に登場する王ピュグマリオーンのこと。彼はキプロス島の王であり、優れた彫刻家でもありました。現実の女性たちに失望していた彼は象牙の乙女像を彫り上げます。完成した像はあまりにも完璧で、王は彫刻と知りながら恋に落ちてしまいます。服を着せ、愛撫してやり、豪華なベッドまで用意するほど、彫像をまるで生きた人間のように扱ったピュグマリオーン。ショーはこの神話を翻案し、戯曲『ピグマリオン』を書き上げました。1912年のことです。しかし『変身物語』のピュグマリオーンや映画『マイ・フェア・レディ』の恋がハッピーエンドで幕を閉じるのに引き換え、ショーの『ピグマリオン』では、上流社会の教養ある男性ヒギンズ教授は、すっかり洗練された元花売り娘のイライザに最後、捨てられます。そう、ギリシア神話という、ショーの執筆当時にはすでに「存在しないもの」を、女性の自立を描きつつ階級社会への痛烈な風刺に満ちた、極めて現在性の高い文学として生まれ変わらせたのです。
受け手としての土壌づくりに励めば、降りてくる体験はもはや目の前にあるも同然。もしあなたが、なんとなく作家になりたいな〜と夢見て、とりとめなく文章を綴っているのだとすれば、いますぐ態度をあらたほうがいいでしょう。逆に、そんなことはない、自分は常に真剣に小説を書いているとキッと眉を上げたとして、それでもなおアイデア降臨の機会が少ないとすれば、真剣味が足りないのではなく、ひょっとすると、自分だけの世界のバリアが、せっかくの降臨物を跳ね返してしまっているのかもしれません。これまで積み上げてきた方法論はいったん脇に置いて、別の世界に飛び出すつもりで創作アプローチを見直してみましょう。神話という既存の物語から着想を得て、独自の物語へ換骨奪胎してみせたバーナード・ショーが好例です。神話をモチーフにした創作方法は、文芸のみならず映画の世界でも見られる手法ですが(参考:当ブログ記事『ヒーローの作り方 〜常人が英雄になるプロセス〜』)、ただ神話を鑑賞すればいいというものではありません。そこから降りてくる無数のヒント、アイデアを両手いっぱいに広げ受け止めることが必要なのです。ショーに倣うならば、想像の世界、「存在しないもの」の世界は限りなく広いもの。空想を広げ、思考を遥かな遠い場所へと飛ばして、「書くこと」に再度チャレンジしてみましょう。最後にもう一度繰り返します。「アイデア」という天の恵みは誰にも与えられるもの。あとは、受け取る側の準備、ただそれだけなのです。
※Amazonのアソシエイトとして、文芸社は適格販売により収入を得ています。
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