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今回は、以前このブログでも取りあげた「プロット」について、また別の角度から掘り下げてみたいと思います。“プロット”とは、小説を書くためになくてはならないもの――「設計図」――であることは前回お話したとおりです。“ストーリー”は物語の数だけ存在しますが、その物語を書くための骨組であるプロットのパターンは、建築物の基本構造が屋根・壁・土台のわずか三要素から成り立っているように、そう多くはありません。物語のアイデアを得たら、まずプロットに起こし、その上に肉づけし、細部を創りあげていくことが、小説を書くため、物語を書くための創作営為であるといえますが、たったひとつのプロットからどのくらいの数の異なる小説が生まれるか、皆さん想像できるでしょうか。それはそれは、ちょっと驚くほどのバリエーションになります。
それでは、もっとも古典的ともいえるひとつのプロットをご紹介しましょう。その流れは以下のようになります。
1.主人公の日常や、現在の状況が提示される
2.ある出来事が起き、主人公が窮地に陥る
3.主人公は窮地を脱しようと試みるが問題は悪化し深みへはまる
4.最悪の状況下で主人公に変化が起きる
5.この“変化”にもとづいて主人公が行動を起こす
このプロットを見て何かお気づきになりましたか? そうです。ここには“結末”は含まれていないのです。つまり、主人公に起きる“変化”が望ましいものかそうでないかによって、結末のトーンはまったく異なり、このプロットはハッピーエンドにも悲劇にも、エンタメ小説にも純文学にもなり得るわけです。いわば古典的なプロットとは、ストーリー構成黄金比をもつものと言い換えてもいいかもしれません。もちろんこのプロットで、すべての小説が成り立つわけではありませんが、本を書きたいあなたにとって、知っておいて絶対に損のないTIPS(ティップス=コツ、豆知識)といえるでしょう。
では、この古典的プロットに則って書かれた小説に実際どのような肉づけがなされているか、それによってどのようなオリジナルな光彩を放つに至ったか、見ていきましょう。
何を隠そう当社から新訳版が出版されている、あのヘミングウェイの『老人と海』も、じつは基本プロットは“これ”なのですが、ノーベル賞受賞の御大の作品を解説するのは恐れ多いので、やめておくとします。その代わりとして俎上に載せるのは、アメリカのベストセラー作家スティーブン・キング(こちらもスーパー御大ではありますが……)の『刑務所のリタ・ヘイワース』です。この作品は、『ショーシャンクの空に』という映画でご存じの方のほうが多いでしょうね。1994年の公開からじつに20年以上のときが経っているというのに、Webや雑誌媒体が人気映画ランキングなど開催すれば、たいていの場合トップ10に入ってくる、あの超人気・超ロングセラーの映画『ショーシャンクの空に』です。映画は2時間半にも迫るけっこうな長篇ですが、原作は中篇程度のボリュームでプロットもわかりやすいので、参考書としてもぜひご一読あれ。
〈『刑務所のリタ・ヘイワース』あらすじ〉
ショーシャンク刑務所で“調達屋”と呼ばれたレッドがある囚人について語る。その男、主人公のアンディーは妻殺しの罪で服役。無実を主張するも相手にされず、古参の囚人にいたぶられ、ようやく無実を証明する証人に出会うが銀行員であったアンディーの才能を利用したい所長の陰謀でチャンスは潰える。すべての希望を失ったかに見えたアンディーだったが、沈黙の内に脱獄の計画を着々と進め、ついに自由を得る。
どうでしょう。前出の“基本プロット”の1〜5の流れに沿ったストーリーとなっていますが、そこにちょっとしたアレンジが加えられているのがおわかりになりますか? この小説を書くために、キングが基本的なプロットに加えたアレンジは大きくふたつです。ひとつは“語り手”の存在を設定して主人公と密接な関係を創りあげたこと。それにより、物語空間に臨場感、奥行きが生まれると同時に、レッドとアンディーの友情という横糸がストーリーの興趣を増しました。そしてもうひとつは、前半部の山場、結末へ向けての山場と、主人公が刑務所で苦境に陥る山場を2か所配し、クライマックスを一層盛り立てたことです。つまり基本プロットに加える“アレンジ”とは、オリジナリティや情感、小説の完成度を高めていくにために要となる大切な手法なのです。
ストーリーテラーと呼ばれるエンターテインメント作家の短篇や中篇は、プロットやアレンジを学ぶにも格好の素材となります。本を出版したいあなた、あなたのオリジナルな小説を書くために、ぜひとも参考にしてみてください。
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