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小説を書くうえでの「人物造形」とは

2016年04月14日 【小説を書く】

作者の自己実現はあくまで現実の世界で

冒頭からちょっときつい言い方をしてしまいますが、作者が好き勝手に書いた小説のなかで、主人公がこれまた好き勝手に立ちまわり、おそらく作者が現実世界ではなし得ない「夢」みたいなことすら実現してしまう作品。あなたは「痛快!」と思いますか? そんなことはないはずです。読者目線で見れば、こんな作品がもっとも嫌われるのです。
でも、ハードボイルドに立志伝、ヒロイズムほとばしるアクション作品が、本の世界でも映像の世界でも、いくらでもヒットを飛ばしているじゃん! と思われる方もいることでしょう。そうですね。ではその違いとはいったい何なのでしょう?

登場人物は作者の言いなりに動く操り人形ではない

作品を創りだすのが作者である以上、作品世界を司るのも作者であることに違いはありません。では主人公は? もちろん作者自身を投影した人物像でかまわないのですが、「作品」としてお客さまたる読者に小説を提供する以上、読み手を作品世界に没入させ、登場人物に感情移入しやすくするような心がけが必要です。逆に、それを邪魔されると読者は怒り、シラけ、本を放り投げます。

読者が怒りだすポイントはいくつかありますが、巧拙関係なく許されないのは以下の3つでしょうか(厳しい読者ならいくらでもありそうですが……)。

1.書き手が自分の文章に酔っている
2.ストーリー展開が都合よ過ぎ
3.登場人物のキャラがコロコロ変わる

1は誰もが頷くところでしょう。手紙でもメールでも同じことが言えそうです。いくら巧い文章でもイラッとくる文章というのはありますね。

2は事例を挙げればわかりやすいでしょうか。主人公がピンチに陥ったとき、何の前触れもなく助け舟が現れたり、逆に敵が急病になったり、「おいおい、そりゃないゼ……」という展開です。事実に基づくノンフィクションやドキュメンタリであれば「奇跡」と見なされるできごとも、創作された作品になった瞬間に「ご都合主義」と見なされてしまいます。

3、じつは読者がもっとも忌避するNGがこれかもしれません。なぜならば、読者は登場人物に感情移入して小説を読み進めるわけですから、途中でその感情(つまり=読者の感情)にあまりにもそぐわない方向に登場人物が動きだしてしまったら、「ちょっとちょっと……」となるわけです。
次にそうなってしまった理由を頭に巡らすと、ストーリーを進めるために作者が神のごとく登場人物のキャラを変質させた、つまりその人物の人間性を無視して操り人形にしているんじゃないかと訝り(いぶかり)ます。
すると最後に読者は「(感情移入しつつあった)自分をも操り人形にしている!」との結論に至るわけですね。これは腹が立つでしょう。無理はありません。誰だって、どこかの誰かに木偶(でく)や操り人形などと思われたくはありません。

――ということにならないように、登場人物の人物造形には、一貫性をもたせる必要があります。彼らを物語上の「駒」とするのではなく、むしろ「この人ならどう行動するだろう」と考えてストーリーを展開していくと、作品世界も活き活きとしてくるはずです。

主要な登場人物の履歴書を作成する

人物を印象づける大きな要素は、その人の性格や考え方ですが、これをブレのないものするためには、その裏づけを明確にしておくことです。つまりその人の「人格」が形成される背景「履歴書」をつくってみることをオススメします。

単に学歴や職歴を並べるだけではなく、その人物の生い立ちや生活環境、嗜好(しこう)といったプライマリな部分を詳述するよう心がけましょう。例えば、どのような家庭環境に育ったか、家族構成、兄弟の有無や何番目か、といったことも考えておきたいポイントです。ほかにも家族以外の人間関係、趣味をはじめ関心をもっている分野、信仰や思想の傾向、特技や苦手分野といったことも決めておくと人物像はより奥行きを増すでしょう。さらには、過去に何かひどく辛い体験をしたとか、特に波瀾なく平凡に生きてきたとか、おおよその経歴も考えておき、それらを踏まえた性格もできるだけ具体的にイメージしておけば、もう完璧といったところでしょうか。

これらはもちろん、物語のなかですべてを明かす必要はありません。ストーリー展開上、必要な部分を明かすだけで充分です。ただしそれ以外の「背景」についても、作者は常に意識し、その性格や考え方をベースに人物の言動も想像すれば、作中での登場人物の立ち居振る舞いは、スムーズかつリアリティを備えたものとなるでしょう。

そうして仕上がった草稿を誰かに読んでもらい、その方の感想に「ストーリーが云々……」だけでなく、登場人物に関するコメントが見られたとすれば、あなたの人物造形は成功したといえるでしょう。

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