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小説にしてもエッセイにしても、話の本筋とは関係のないクセや嗜好性を記述することで、登場人物の輪郭はリアリティをもって読者に届けられるものです。ただ、一般的な慣習から見てあまりにも妙なクセにしてしまうと、読者の目線はそこばかりに向いてしまいます。話の伏線として用意したクセであればそれでもかまいません。しかし、単に細やかな人物造形のために用意するクセなのであれば、作品後半において読者に肩透かしを食らわすような設定は避けたいところ。
現実の暮らしのなかで見る人々を想像してみましょう。家庭、職場、学校、友人関係、馴染みの店……、そこにいるのは、それほどヘンなクセはもっていない案外ふつうの人が多いのではないでしょうか。それでも、彼らにはそれぞれの特徴があるはずです。それは優しいとか怒りっぽいとか抽象的な性質を表す特徴もあれば、それをよいとも悪いとも、好きだとも嫌いだとも分別する必要のない特徴だってあるはずです。
お酒を飲む、ジュースは飲まない、タバコを吸う、タバスコが好き、スマホを始終眺めている、ガラケー派を貫いている、メガネがいつもちょっと斜め、PCが苦手、テレビが大好き、トイレットペーパーを三角に折る、靴をきちんと並べる……。例を挙げればキリがありません。
他者のそれらの特徴はきっと、あなたに具体的な何かをもたらすことはないでしょう。でも、何となく相手を「こんな人」とイメージする際の一助にはなっているはずです。こんなふうに人を観察してみるとき、私たちの目はついつい「人」に行ってしまいがちですが、「もの」のほうに着目してみれば、作中の登場人物の造形にも応用が利くことに気がつくはずです。つまり、何がしかの「小道具」をもたせてしまえば、登場人物にはある程度のイメージをまとわせることができる、ということです。さらにいえば、複数の登場人物の設定にバリエーションをもたせたい場合、「小道具」の設定を先行させた人物造形をしてもいいわけです。
小説家の高村薫氏の作品『神の火』には、暇さえあればウォッカを呷っている島田という主要な登場人物がいます。彼は熱を出していようが、重要なミッションのただなかにあろうが、かまわず飲みます。それによって軽い酩酊は催すものの、それも意図した範囲内。潰れることはないし、不本意に寝入ってしまうシーンなど描かれていません。単に省かれているのではなく、じっさいほとんど寝ていません。
この設定から、あなたは島田をかなり立体的に捉えられたはずです。ハードボイルドでタフガイだが、しかしどこか破れ目のある人物――そんなところではないでしょうか。この作品では、「ウォッカ」という小道具がストーリーの運びを担うことはありません。けれども、島田というその人をリアルに投影するためには、欠かせないアイテムとなっているのです。
最近のテレビドラマでは、タバコを吸うシーンなどまずもってお目にかかれません。ヘルスケアの側面から来る世のなかの嫌煙ムードや、未成年への配慮、つまりコンプライアンスを意識した自主的な規制によるものですが、制作側から見れば、使い勝手のいい小道具をひとつ失ったことになります。刑事あるいは逃亡者などに、タバコの一本でも咥(くわ)えさせれば、彼らの心理的な描写を挿し込む「間」をつくることができたからです。
しかし文芸の世界には、この自粛の波は訪れていません。だから、登場人物にはスパスパとタバコを吸わせることができますし、先の『神の火』の島田のように、法を無視して飲酒運転をさせることさえできます。けれども、ここでちょっと気にしておきたいのは、小道具だってそれぞれに時代性を伴っているということです。
タバコを吸う、タバコをポイ捨てする。タバコにまつわるそれら行為は、作中に描かれる時代が「現代」なのか「戦時下」なのか、はたまた「近未来」なのか、時代によって読者の捉え方も変わるものなのです。現代が舞台の作中において、登場人物が駅のホームでタバコを吸うとなれば、その人物は現代社会における「駅のホームでタバコを吸う(ような)人物」と読者の目には映るわけです。つまりは、ちょっとモラルを欠いた人ということです。でもそれが、戦時下の塹壕での喫煙となれば、印象はまったく異なるわけですね。
このようなことを意識しながら、小道具ありきの人物造形を進めてみると、書き手本人としても意外なキャラクターを作中に登場させることができるかもしれません。
※この記事は弊社運営の【気軽にSite 執筆・出版の応援ひろば】掲載の記事を再構成して作成しています。
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