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人は、ときに“モノ”を集めます。ほくほくと楽しげに、ある者は憑かれたように、ある者は誰かの目に神経を尖らせながら……。また、自然の成り行きで、いつの間にかちょっとしたコレクションが形成されていた、ということもあるようです。
そもそも“収集”とは、未知の自分の世界に目を開いていくことなのかもしれません。詩を書く、小説を書く、あるいは絵を描く――創作を生業とする彼らが集めた“モノたち”を見ると、いっそうそんな思いを強くするのです。コレクションとは、まるで作家たちのミクロ・コスモス。その創作に通じる、特別な空気感を伴った世界として存在しているようです。
骨董、美術品、どこかの国の民芸品、遥か昔の謎の遺物、原始的にして精巧な玩具……等々で溢れかえりながら不思議な調和を見せてくれるのは、シュルレアリスムを創始したアンドレ・ブルトンの部屋。そんな名高きブルトンの部屋に似ているようでいて、まったく異なる空気を生んでいたのは、日本におけるシュルレアリスムの旗手、詩人・画家の瀧口修造です。彼のコレクションは、いわば無名のモノたちで形成されていました。海辺の貝殻や石、流木、誰かからもらった土産物――「時」の向こう側から漂流したどり着いたようなモノたちが自由に呼吸する部屋には、どこか“旅”の匂いが感じられるのでした。
『妖精の距離』
うつくしい歯は樹がくれに歌った
形のいい耳は雲間にあった
玉虫色の爪は水にまじった
脱ぎすてた小石
すべてが足跡のように
そよ風さえ
傾いた椅子の中に失われた
(瀧口修造『瀧口修造の詩的実験1927〜1937』思潮社/2003年)
この詩からは、石ころや貝殻、“スーベニール”の包みが転がった瀧口の書斎の風景が浮かび上がってくるような気がします。旅路を想いながら脳裏に描く、簡素で、美しいファンタジー。それは現実のなかで見る至上の夢かもしれません。
クラシックなメカに我を忘れてしまう作家も少なくありません。古いラジオコレクションに血道を上げていたのは、詩人の谷川俊太郎です。自他ともに認める元“電機少年”で、ハンダづけなどはお手のもの、真空管ラジオを組み立てるのが何よりの楽しみだったそうですから、そのコレクション魂は筋金入りといえましょう。
いっぽう、中古カメラに限りない愛情を注ぎ、100台もコレクションしたのは作家・前衛美術家の赤瀬川源平です。“写真はひやかし”と言いきり、“ひやかしには重圧がない、それが一番重要なこと”というふうに語っていましたが、この“ひやかし精神”こそは新たな世界を拓く鍵のようにも思えます。
中古カメラ店のウインドウの中には、中古カメラがたくさんある。ウインドウのガラスで遮断されているから大丈夫だけど。『ちょっとすみません』とか言って目をつけたカメラを出してもらうのは危ないことだ。手に取って触るともうその手から中古カメラの病気に感染する。ひどいときは発熱して、仕事も手につかない。そのカメラを買うまで熱は下がらない。この病原菌を中古カメラウイルスという。ほとんどが金属製なので金属ウイルスともいわれている。
(赤瀬川源平『ちょっと触っていいですか 中古カメラのススメ』ちくま文庫/1998年)
金のあるなしに関わらず、モノに頓着しない(物欲の有無とは違う)というタチの人を除いては、元来、人はモノを収集するという行為に多少なりとも警戒心を抱くようです。それは、余分な散財をすることへの恐怖心のほか、モノが増えてしまうことへの煩わしさ、モノに愛着することの重み……などに対して、ほとんど本能的な拒否反応が働くからかもしれません。けれど、コレクションとは実際、それほど警戒すべき所為でしょうか。それにしては、「ライカ同盟」なる同盟まで結成してコレクションの愛機を手に街を徘徊する赤瀬川氏は、この上なく楽しげでした。そして、作品展にずらりと並んだ中古カメラのスケッチは、氏の芸術の新境地を思わせ、観る者の心を躍らせる眺めでした。ということは、そんな経験を得るためにも、作家になりたいあなたであれば、こう心しなければならないのかもしれません。
――気がつくと、モノを手に取り、みずから感染源に飛び込んでしまった。
降って湧いたようなそんな愛しき瞬間は、きっとあなたの創作魂の源にもなるはずなのですから。
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