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一般的には「読書の秋」。でも、本を書きたい人にとっては「執筆の秋」かもしれません。過ごしやすい気候の訪れとともに、このブログを読まれる皆さんの筆も、収穫祭よろしくスラスラと進んでおられることでしょう。
ところで10月は、年度後半のスタートとして気分を新たにする場面も多いものです。何かをはじめるにあたっては、事前のリサーチに注力する人、カタチから入る人、一も二もなく着手する人……etc.と、人によってさまざまなタイプが見受けられますね。文章を書くのだってこれと同じ。名入り原稿用紙の束に高級万年筆、それらを重厚な造りのデスクに広げる完璧装備派、チラシの裏を活用するエコフレンドリー派、スマホ入力のカジュアル派……。ともかく、どんなスタイルであれ、大切なのは書くこと。そして書きつづけることです。今回は海外のさまざまな作家たちの個性的な執筆環境づくりを覗いてみましょう!
※この記事は海外サイト『booklife』(2016年8月22日付記事・“How to find the writing regimen that works for you.”)の一部補足を含む抄訳となります。
〈書ける〉状況を延々待つ人は、たったの一語さえ文字を起こすことなく死んでしまうだろうね。
E.B.ホワイトは、文芸誌『The Paris Review』のインタビューでこう答えています。事実彼自身、あたかもそれを証明するかのように、騒音に充ち充ちたリビングルームでの執筆をあえて選んでいます。
結果、家族はぼくが物書きだってことを、これっぽっちも気にかけちゃいないんだ。でもそれが心地いい。そんな環境が嫌になっちゃえば、別の場所で書くことだってできるんだしね。
ホワイトのこうした姿勢は、創作に際して生活者としての感覚を失わないという意識の表れなのかもしれませんね。
ご存じのように、アーネスト・ヘミングウェイはデスクの前に立って執筆していました。そんな彼は、同じく『The Paris Review』のインタビューのなかで、自らの執筆環境についてこんなふうに語っています。
毎朝、陽の光が差しはじめるころさ。それは誰にも邪魔されない時間なんだ。体中に力が漲って、作中、次に何が起きるかを予見できるうちは書きつづけたらいい。そして書くのを止めるときは、次の日も同じことができるようにしておくこと。それがやり遂げられそうにもなかったら、それは〈待ち〉の時間なんだ。
マーク・トウェインはしばしば寝転がって書いていたといいますし、『ダ・ヴィンチコード』の著者ダン・ブラウンは、執筆中に行き詰ると上下逆さまにぶら下がるのだとか。スランプ解消にも十人十色さまざまな方法があるものなのですね。
ミステリー作家のフランチェスカ・スタンフィルは次のように述べています。
決まった日課なしには、錨の解かれた舟にでもなった気がするの。逆にきちんと自己管理ができていれば、いつだって最高にハッピーよ。デスクにはピカソの『Inspiration exists, but it has to find you working.』という名言を額装して掲げているわ。
つまりスタンフィルは、毎日の仕事をこなした上ではじめて、優れたアイディアや発見がもたらされるということを信条としているようです。彼女は朝早くに7階の自宅アパートメントを出て、すぐそばのバレエのクラスに顔を出し、それから小さな地上階のオフィスに向かいます。
神聖なこの場所を、私は〈洞窟〉って呼んでいるの。資料や辞書や、参考文献、あとは書きかけの小説に関する地図なんかが並べてあってね、できる日で5、6時間はみっちり働くわ。
彼女のデスクには、お気に入りのコーヒーマグ――シェイクスピアの『真夏の夜の夢』の一節“Though she be but little, she is fierce.(彼女は小さいけれど鼻っ柱が強い)”が刻まれている――が置かれています。
これと対照的なのが、ジョン・サール。彼は日課というものにまるで意味を見い出さず、とにかくルーズでいることを好むそうです。
執筆に向かうぼくの手順に決まりはないんだ。朝早く書いてみたり、夜中に書いてみたり、手書きにしてみたり、ラップトップのキーボードを叩いてみたり。飛行機のなかでもたくさん書いたし。こんなごちゃ混ぜのやり方がぼくには合っててね、だから飽きることもないんだ。
奔放な執筆スタイルという点では、詩人ブレンダン・コンスタンティンもなかなかのもの。「決して日課は定めない」と彼は言います。
ぼくの詩人としてのキャリアは、時間のないところからひねり出されてきたようなものさ。電話でも書くだろう? タブレットでだって。ラップトップのPCでも書くし、飛行機に電車、クルマの肘掛の上なんかでも、ノートPCをバランスよく置いて書いたりするよ。もう書き方は自由気ままそのものさ。第3詩集に収める作品を書きはじめたのは、舞台用品の店で、ウサギのコスチュームを買ったまさにそのときだったんだ。よくできたやつでね、100ドルだった。そんなものが必要になるなんて思わないよね。でもね、ちょうどたまたまその当時ぼくがのめり込みつつあったテーマが、動物実験だったりしたのさ。
コンスタンティンはつづけます。
ある夜遅く、そのコスチュームを着てさ、書きはじめてみたよ。するとさ、目が開けていられなくなるまで、原稿を山のごとく積むことができたんだ。その2日後、もう一度同じことをやったよ。手がシビレてね、1インチもあるNaugahyde(ノーガハイド:人工皮革のブランド)に汗がすっかり染み込むまで書いていられたんだ。バカげたコスチュームだけど何かあるんだよね。結局、書いた詩が本になるまでちょいちょい着てたよ。
別の自分になりきる、もしくはまったく違う生き物になってみせる。それこそが詩人のインスピレーションというものかもしれません。
自費出版の方面で何かと指南役となっている冒険旅行作家のカーラ・キングもまた、さまざまなネタからインスピレーションを得ているようです。
私の本は、インターネットにアップした特報、書いたコラム、教室で教えたことなんかがソースよ。週末、それらの材料を猛烈な勢いで整理するの。そこから4週間から6週間、エネルギーを注ぎに注いで文意の隙間を埋めていって物語を創り出す。「実り」ってものはね、ばかばかしいほど長くて非生産的な“繋ぎ”と“粗探し”の過程を経てこそ生まれるのよ。そのあいだずっと、こんなことさっさと止めて出版するんだって繰り返し自分に言い聞かせてるんだけどね。
地道な作業を重ねてはじめて冴えた文体、そしてそれが結実したものとして「本」が生まれてくるという――なるほど、と思わされますね。
いっぽうバーバラ・アバクロンビーは、かなり現実主義者的なタイプです。
本を書くことが私の仕事。〆切があれば、厳格なルーティンを課すの。週に6日は早起きをして運動をして、デスクに座る。いまでこそ新刊創作の私なりのアプローチははっきりしてきて少しユルめになってきたけど、どんな日も何でもいいからちょっとは書くようにしているわ。私のミューズ(芸術家の創作意欲を刺激する女神、詩神)は犬のネルソンよ。私の書くものすべてを完璧だと思ってくれているんだから。
なるほど、ペットにはこういった役割もあるのですね。
書き手の全員にジャストフィットする日課など、、たったひとつもないことは明らかなようです。けれども、ほとんどの人が同意することがあります。それは“毎日書く”こと。きょうはまったくのダメダメと思えたものも、あしたになったら輝いて見えるかもしれません。
いみじくも『私の中のあなた』『19分間』などで知られるベストセラー作家のジョディ・ピコーが言うように、「誰だって空白のページを編集することなんてできない」のですから、とにもかくにもさあ座って、書きはじめてみましょうよ。
※Amazonのアソシエイトとして、文芸社は適格販売により収入を得ています。
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