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ひと言で「エッセイ」といっても、さまざまなタイプの作品があります。皆さんが想像するのはどんな一冊でしょう。食や趣味など、特定のジャンルの話題でまとめたもの。専門的な話を学者が噛み砕いて紹介したもの。あるいは特にジャンルにこだわらず、雑学の話をちりばめたもの……。いろいろありますね。でも、書店で何より多く目にするのは、芸能人やスポーツ選手など著名人によるエッセイ集でしょうか。平積みされたり面陳されたりする新刊のなかには、必ずといっていいほど有名人のエッセイが並んでいます。彼らは存在自体が一般人と比べて「特別」ですから、ただそれだけで衆目を集めることができる、つまり本を出せば売れる算段が立ちやすいということもあり、いつの時代も書店店頭を賑わせています。売れりゃなんでもいいの? と思われる向きもあるでしょうが、商売上、売れるとわかっているものを売るのは、どの世界でも当たり前のこと。それに、おもしろいエッセイ集だってもちろんあります。とくにエッセイというジャンルにおいては、「芸能人だから……」などと色眼鏡で見てしまわないほうが、案外いい作品に出会えるような気もします。
さて、あなたがエッセイを書こうとするならば、どんな作品になりそうですか? ほとんどの人はやはり、自身の体験をもとに綴った作品になるでしょうか。子ども時代の思い出や、日々の暮らしのなかで見たり聞いたりしたことを題材にした、いわば身辺雑記。それをもう少し丁寧に綴り、「文芸作品」の格調をもたせたエッセイ集です。
日常に転がる素朴な素材をあつかいながら、えもいわれぬ感動をもたらしてくれるのもエッセイの魅力です。じんわりとした温かみや、あるいは逆にブルージーな切なさを伝えるなど、こうした作風はプロ作家の作品でもアマチュア作家の作品でも多く見られます。ただ、アマチュアの書き手が陥りがちな落とし穴がひとつあります。それは、出来事の経緯をあまさず書こうとすることです。
たとえば、休日の朝、何時に家を出て、何線の電車でどこそこまで行って、バスに乗り継いで目的地に到着。そこで何を観て、何を食べて、夕方の何時には帰宅して、きょうは充実した一日だった――みたいな文章を、人は「作品」と呼ぶでしょうか。ここではかなり極端な書き方をしたので、「まさか自分は」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、コンテストの応募作などを見渡すと、これがけっこう多いものなのです。たしかに体験記に違いないのですが、エッセイというよりもむしろ日記のような印象を読み手に与えてしまいます。ブログなどSNSが広く普及し、「文字入力して公開する」ことのハードルは相応に下がっているはずですが、内輪向けでない文章を書く場合には、それとはまた異なる意識が必要なのかもしれません。
ここで読む側のことをちょっとロジカルに考えてみましょう。日常を綴るエッセイといえど、読者を想定することでクオリティは格段にあがるものです。その視点を備えているかどうかが、日記とエッセイの分岐点ともいえます。さて、エッセイをよく読む読者というのは、いったいどんな本の選び方をするでしょうか。いろんな作家の作品を手当たり次第に読むよりかは(そういう人もいるはずですが)、ある程度決まった特定の作家の作品を何冊も何冊も読む人のほうが多いのではないでしょうか。どうしてそうなるかといえば、ここがエッセイというジャンルならではなのですが、書き手に魅力があるから作品を読みたくなるわけです。では、書き手の魅力となんなのか。単にその書き手のことが好きというより、その作家の目を通して眺めた日常やそこに登場する人々、それらが織りなす悲喜こもごもの出来事が、なんともいえず「いい」のでしょう。
具体的にいえば、その人の行動、目のつけどころや、ものごとの捉え方、感じ方や考え方に、おもしろさや新鮮味を感じるということでしょう。また、その人の考え方に共感できるという場合もあります。もちろん、エピソード自体が特殊でおもしろい場合もあるでしょう。ただその場合にも、読者の関心は出来事そのものよりも、むしろその出来事に対する著者の反応にあるということができます。加えて、その語り口が好きだということもあるでしょう。ユーモアがあって楽しいとか、歯に衣着せぬもの言いが気もちいいとか。ひっくるめていえば、これらはすなわち「書き手の個性」ということになります。さあ、ここまで書けばもうおわかりですね。つまりベスト・エッセイを書くための秘訣とは、あなたの個性が印象づけられるような作品に仕上げることなのです。
とはいえ「こ、こ、個性……???」と思わずたじろいでしまうのが日本人というもの。でも安心してください。就職試験の面接のように難しく考えることはないのです。先の日記をベースにした作品でいえば、行き帰りの行程はすべて省き、目的地で観たものや出会った人について「感じたこと」や「考えたこと」を綴ればいいのです。そうすることで、エッセイ全体に書き手の性格が表れると同時に、テーマも明確でまとまりのよい作品になるはずです。同じものを見ても、同じ体験をしても、感じ方は人それぞれです。目にした対象そのものへの感慨ばかりでなく、それを見たことがきっかけで別なことが頭に浮かぶということだってあるでしょう。そうした「あたなの心や頭に生じたこと」を丁寧に表現していけば、自然と自分にしか書けない個性的な作品となっていくものです。自分の嗜好や志向、そして思考が、読者に伝わりやすい題材を選んで書いてみるのもひとつの方法でしょう。そうして書いたエッセイは、人に読んでもらうことをオススメします。それは、単なる身辺雑記になりがちなエッセイに、「作品」としての風格をもたせるための大切な一工程なのです。
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